
園長 難波 香織
急に朝晩の冷え込みが厳しくなってきました。
朝、温かいお布団から出るのが、おっくうになってくると冬支度も本番です。
幼稚園を囲む木々の葉は落ち、重なるように敷き詰められ、その下には弱ったコオロギが隠れ、枯れた木の枝には、茶色いカマキリがしがみついています。
虫好きの子ども達に一旦は捕まえられるのですが
「生きてるから逃がしてあげよう」
と殊勝な言葉を添え逃がす姿が見られます。
ついこの間まで、収集することばかりに気が向いていた子ども達の「命の存在に気付いた心の変化」を感じます。
また先日のハイキングでは、年中児や年長児たちの成長への手応えを、先生たちは実感したようです。
去年に比べどの子も遅れることなく、かなり険しい山道でもしっかりと自分の足で歩ききりました。
実は運動会での子ども達の姿にも特筆したいことがありました。
それは、今年は転んで怪我をする子どもがいなかったこと、転んでも自力で立ち上がり、途中で競技を投げ出す姿がなかったことでした。
2020年、未知だったコロナウィルスの蔓延から子ども達の生活は大きく変わりました。
外出や外遊びの制限は身体を使う機会をすっかり奪いました。
その中で幼稚園生活を始める子ども達の多くは、広い場所、大勢の人への抵抗感と共に視野も狭くなっていました。
身体全体を使いこなすためのバランス感覚、体幹もとても弱くなっている様子がうかがえました。
大切な命をコロナウィルスから守り安全に育てるためには、人込みを避け、家の中で過ごすしかなかったのですから、誰のせいでもありません。
しっかり立つこと、きちんと座ること、少しの時間でも体勢を保持することが苦手な姿が多いことを私たちは実感し、何とかしなければという思いに駆られました。
それからは、子ども達が歩く経験を意識的に取り入れてきました。
また広い場所で全体を見渡すことや一点を見たり、遠くを見たり、生活の中で聞こえてくる音を見つけたり、何より話を聞く楽しい経験も積んできました。
アスレチック広場の拡張により環境も充実しただけでなく、上り下りを使った鬼ごっこや、急こう配のがけのぼりなど、先生たちは子ども達の意欲を損なわずに、身体全体を使い楽しめる遊びを意識して取り入れてきました。
その間、ちいさな怪我は沢山あったけれど、どの子も足取りが力強くなったのではないでしょうか。
年少児たちは、まだ入園して一年もたたない中ですので、これからの成長を楽しみにして頂きたいと思います。
それでもお兄さんお姉さんたちの姿に触発され、今ではドングリの森を上からのぞくと、たいてい年少組の子どもたちが遊んでいます。
先日はピンク組の子ども達が新しいアスレチックの上り棒から、いとも簡単にスルスルと降りてくる姿に出くわし「すごいねー」と声をかけると、「こんなの簡単だよー」と返ってきました。
そんな風に自信満々で答えるようになるまでに、先生達が手を差し伸べ、落ちないようにと支えてきたことを、子ども達自身は気付いていないでしょう。
いずれにしても、子どもにとっては実体験がなにより本物の力になる学びです。幼稚園の遊具、環境はすべて子ども達のために考え作られているものです。
特に遊具は、子どもにとってあえてノーリスクにはしていません。(安全基準はクリア、点検も怠りませんが)むしろ子ども自身が遊びながらリスクを察知し、自分の力と照らし合わせながらリスクを乗り超えることで、本当の意味でのリスクを避ける力が身につくと考えています。
子どもの意思が芽生えようとしているときに、危ないからあなたにはできませんと決めつけて、やらせなければ、その子のやってみようとする意欲も一緒に失っていくでしょう。
私たち保育者は、子ども自身のチャレンジしたい気持ちが動いているなら、どんなタイミングで、どこを支えることが肝心なのかを見計らい、どうやったらできるのかを子どもと一緒に考えながら、そのチャレンジを支えるのです。
幼児期だからこそ、自分の力で世界を広げていく好奇心をばねにして、生きる意欲を小さな体いっぱいに満たしてほしいと願います。
この意欲が少しの失敗や自分の思い通りにいかないときに感じる葛藤を乗り越える原動力になる筈です。
まだまだこれから続く園生活、年長児たちの闊達で生き生きと成長していく姿を通して、どんな園生活を過ごすことが子ども達の健やかな育ちに大切なのか、コロナによって覆われた暗雲の中に、少しだけ光明が見えてきたような思いです。
さて、11月には学年やクラスを超え、自分たちの考えた世界観を作り上げていく、「りんりん祭」があります。
運動会が終わった翌々週に、年中、年長児たちは昨年のりんりん祭のことを思い出しながら、今年はみんなでどんなことをやりたいか、小さいお友だちも一緒に交えて取り組んでいくことなども伝え、クラスで話し合いを進めていました。
楽しいアィデアが、沢山出ていましたが、果たしてどんな活動になるでしょう。
「あっ!いいことかんがえた!!」
と子ども達の言葉が飛び交う様子が、今から楽しみです。
これから出るお便りには、じっくりと目を通していただき、お子様と楽しみにお話して頂ければと思います。
日本の教育は「主体的で、対話的な深い学び」へと向かい始めています。
そのはじめの一歩が幼児教育にある、ということを、これからも保護者の皆様にはご理解いただきながら、私たちの保育の在り方をお伝えしていきたいと考えます。